Amber Moon

この曲は他のメタル曲と比べて大分異質な曲なんですが、昔からアイルランドやらスコットランドの伝統音楽であるケルト音楽が好きでして、そんな曲があっても良いのではないかと思い作ってみました。

学生時代にスコットランドの伝統音楽を取り入れたロックバンドであるRunrigやBig Countryに出会いケルト音楽にのめり込み、PlanxityやBothey Band、Moving Hearts、Clannad、Baka Beyond、The Corriesといったトラディショナルなバンドから、ポップスではThe Corrs、パンク畑ではDropkick Murphys、Flogging Molly、プログレ畑ではKarnataka、Ionaといったバンドまで色々と聴いてたんですが、根がHM/HRの人間なので、元Thin Lizzyのダーレン・ワートンが居るDareや元Mama’s Boysのマグナス兄弟がやっていたCeltusなんかの影響を強く受けた曲となりました。また歌詞も曲調に相応しいアイルランドをテーマにした物にしようと考えました。

 

毎年、3月17日は聖パトリック・デーと言いまして、アイルランドでは祝日ですが、アメリカではアイルランド系移民の末裔達が緑色の物を身に付けて各地で大パレードを行ったりしています。緑とはアイルランドの象徴であるシロツメクサ(クローバー)の色から来ており、アイルランドを別名エメラルド島と言ったりするのもこの緑色から来ています。

で、この聖パトリックとは何者なのか?

聖パトリキウスとも言いますが、この人は4~5世紀にアイルランドにカトリックを広めた司教で、アイルランドの守護聖人として祀られています。3月17日は彼の命日なのですが、Amber Moonの歌詞はこの聖パトリックの事をテーマとしました。

 

聖パトリックはウェールズのケルト人の家に生まれましたが、奴隷としてアイルランドに売られた後、脱走。ウェールズに戻るや、今度はローマに渡って神学を学び、再びアイルランドに渡り、キリスト教の布教に勤めました。

当時のアイルランドはドルイドと呼ばれる神官が王をも凌ぐ権力を持った社会でしたが、聖パトリックはアイルランドの土着信仰を上手く取り入れて布教活動を行います。

例えば、キリスト教の三位一体の教えを当時から国の象徴であったシロツメクサの3枚の葉に例えて説明しました。今も昔も妖精や精霊の存在が信じられているアイルランドですが、三位一体の「父」「子」「聖霊」の聖霊は実は妖精のことであるといった具合にです。

所謂、神仏習合ならぬ、ドルイド・キリスト習合ともいうべき思想ですが、こうした穏やで現地の人々に受け入れられるように布教活動を行ったことから、ついにはドルイドの神官自らが自分の本地はキリストだったとまで言い始めたりしまして、このように聖パトリックは多くのアイルランド人に慕われることとなったのです。

しかし、王の権力を背景に土着信仰を徹底的に弾圧し、今を以ってブラックメタルという鬼子を生み出し続けるノルウェーにおけるキリスト教の布教史と比べるとエラい違いですね。ノルウェーで布教活動をした宣教師もイギリス人の宣教師が多かったらしいんですが。

いずれにせよ有史以来、1938年に独立するまで(イギリス連邦を脱したのは1949年)ほぼ暗黒時代と言っても差し支えないようなアイルランドの歴史の中で、この聖パトリックが布教していた時代のみが、春の様に柔らかな陽射しの射す穏やかな時代だったとされているようです。伝説では彼が亡くなった際、太陽がその死を惜しみ、12日間沈むことなく輝き続けたとされています。

よって、1番では春をイメージした出だしとなっていますが、アイルランドは冬が長く風の強い日が多いらしいので、聖パトリックの滞在した春のような時期くらい、風が凪いでいても良いのでは無いかと思い、ああいった歌詞としました。

差し延べたその指とは聖パトリックの指で、彼が手渡してくれる花とは冒頭に記したシロツメクサの花をイメージしています。

Bメロの明日を隠す闇とは、一般的に明日のことなど当然判らないのですが、アイルランドの場合、侵略・弾圧・反抗といった歴史の繰り返しだったので、闇という言葉にはより凄惨なイメージを込めています。そしてその闇を振り払ってくれる存在こそが聖パトリックであるという内容です。

サビにおける灯とは命のことです。聖パトリックの命であり、またアイルランドの人々の命でもあります。未来とは先の見えない不安しかありませんが、聖パトリックの教えのおかげで明日も力強く生きて行けるという内容です。

2番は聖パトリックが没した時の情景を歌っています。
Aメロはそのままですが、Bメロでは晴れない闇、見えない明日の中でパトリックの教えを守り続ける様を表しました。そしてサビではその思いを光が奪われたと直裁的に吐露しています。闇を照らす存在として月=聖パトリックとう構図にしてみました。月が叢雲に覆われた時の暗闇の恐怖といったら無いですよね。とは言え、死んだ人間は生き返ることはないので聖パトリックの教えを皆で分かち合い、生きて行こうという風に締めています。

なお、ここで出てくる琥珀の雫というのは所謂アイリッシュ・ウイスキーのことで、蒸留方法を聖パトリックが伝えたという伝説があることから、ウイスキーを酌み交わしながら聖パトリックの話を語り継いだりしたんじゃないかと想像し、先の月のような存在であると併せて“Amber Moon(琥珀の月)”というタイトルとしました。

どちらかと言うと聖パトリック本人というより彼を慕ったアイルランドの人々の情景を描こうと思った次第です。

 

以上です。
なんか今までで一番歌詞解説らしい内容でしたね。
やれば出来る。

 

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